2007年10月20日

やさしさの、ひととき(其の伍)

ところで、“物慣れた”バイトのS君であるが、この辺りでブラックジャックのディーラーを終え、ふっとカウンターの方へ来た。
「どうも、こんばんは」
「はい、お久し振り」
スッとそばで挨拶をすると、ふらりとカウンターへ行きかける。
ここで、例のブツを思い出した。
「S君、ちょっと」
「何ですか?」
「ほれ、この間“持って来る”って言ってたのがあったっしょ?」
「あ・・・・・・もしかして」
こういう言い方をするとき、持っているものは無論のこと見当が付いているお姐さまが、流し目でこちらを睨んでいるのがハッキリと見て取れる。が、これは前回の帰国時にした約束なので致し方無かろう。
「ほれっ!じっくり見比べなさい」
と、ここで一転、カウンターに該当のページを開いた『るるぶ』をドンと置く。S君、写真を見ると一瞬キョトンとしたような表情を見せたが、すかさず当のTさんを見やり、もう一度写真に目を落とし、
「ハハハハハ!」
と、大爆笑。ブウッと膨れて
「○○さん!出入り禁止です!!」
と、Tさん。
「仕様が無いでしょうが。約束だったんだから」
「でも、全員に見せなくても良いじゃないですか」
「でもさぁ、この写真、マトモに正面向いて撮られてるでしょうが。見せるのヤだったら撮られなきゃ良かったでしょうに」
「あの頃はそれでいっぱいいっぱいだったんですよ」
・・・・・・確かに、今、その依頼が来たら
「アンタモデルになんなさい」
と仕切る立場になるであろうな。というコトは、この頃はこのTさんも仕切られる立場にあった訳か・・・・・・。
まぁ、取り敢えずこの『るるぶ』も一巡りしたことであるし、そろそろ我が家の本棚に納めておくことにしようか。

笑いを収めたS君が、カウンターに入ってくる。
「俺、先月研修でひと月居なかったんですよ」
「ありゃま。何処行ってたの?」
「えーと、佐賀の・・・・・・」
然るところにある特養であったらしい。
そこで、入所者のケアの手伝いをしていたのだそうな。人当たりも良いS君のことであるし、力仕事はお手の物であったようだが
「いや、食事の世話の時には閉口しましたよ」
「あ、そ」
「あの“ミキサー食”って見てるだけでもキツイですよね」
「あ、それは解るワ。私も実習でヤったコトあるし」
「あぁ、それじゃあ・・・・・・。Tさん、“ミキサー食”って知ってます?」
と、何故か隣りのTさんに話を振る。
「離乳食みたいなヤツ?」
と、Tさん。
「うんにゃ、違う違う」
「全っ然違います!」
と、2人で揃って否定。
この“ミキサー食”というのは、病気だったり年を取ったりして食事が飲み込めなくなった方に提供されるもので、その名の通り料理をミキサーに掛けてドロドロにしたものである。
「あれ、見てるだけでも食欲無くなるでしょ?」
「本当にそう思いました。でもあれ、色はああですけど・・・・・・」
「ま、色はね・・・・・・」
「でも、唐揚げなんかは唐揚げの匂いがするんですよね」
「ひとつひとつの料理ごとだからねぇ。幾ら何でも」
〜〜〜これ以上の詳細を記すことはこの場では控えさせて頂こう〜〜〜

10.6「?」「そろそろ強いのいってみます?」
と、空になったグラスをみてTさんがお代わりを作ってくれた。これも、何かのアレンジヴァージョンと聞いたような気がするが、定かでは無い。
味は、酸味が結構効いている。アルコールの味は勿論あるが、酸味と上手くバランスを取って突出した感じはせぬ。が、矢張りそこはTさん、胃の腑にじわりと来る感覚は健在である。

ここで、何のかのとここ『ハーフェン』で良く会う方が見えた。
「どうも」
「こんばんは、ご無沙汰してます。先日は眠ってしまっていて大変失礼しました」
「いやいや」
と、荷物をカウンターの一席に置き、手洗いに立つ。
「○○さん、“マズイ人に捕まったな”って思ってません?」
「いや、特には・・・・・・」
Tさんと思わず顔を見合わせる。
そこへ、ご当人が戻って来られた。
「今回は、何泊ですか?」
「今日と明日の2泊です。この連休を使ってきましたので」
「あぁ、そうですか。で、今年は何回目ですか?」
「え〜と(と、指折り数えて)、4回目ですね」
これは、この方とのいつもの会話である。
「そうそう、そう言えば、これ、読みますか?」
と、紙袋をゴソゴソ探り、雑誌を2冊取り出す。
「最新号なんだけどね。読み終わったもので」
「ゴミになるだけだし、○○さん、断って良いですよ」
と、カウンターの中のTさんが口を挟む。
「いやいや、丁度読むものが無くなったことだし、部屋で読ませて頂きますよ。ありがとうございます」
と、雑誌を受け取ってカバンに入れる。
この“読むものがなくなった”のは事実である。それに、活字中毒の私である故、読むものは幾らあっても困らぬのもまた事実である。・・・・・・尤も、流石に帰りの行程にまで持って行くのは憚られたので、申し訳ないと思いつつも部屋に残してきたのであるが。
posted by daydreamer at 19:05| Comment(0) | TrackBack(0) | Cafe・De・Haven Story | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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