2008年04月15日

ゆかりの味

私は、殊に神田界隈で酒販をする際には、時代作家である故池波正太郎氏の影響を強く受けている。これは、池波氏が数多く遺した食に纏わるエッセイを若い頃から読んでいる為であろう。

拙ブログでも、池波氏が生前通っておられた飲食店を訪れた折の記事を幾つか書いている。『万惣』然り、『竹むら』然り、『まつや』然り。
そして、興味はありながら未だ行ったことが無い店も、実はあった。それが、此度取り上げる洋食『松栄亭』である。

最近ではとんと見ない引戸の入口
『松栄亭』は、『まつや』や『竹むら』とは目と鼻の先と言って良い程の近場にある洋食店である。此処の建物は大正13年に建てられ、戦火を免れた貴重な建物のひとつであるようだが、成る程、当時のモダンな雰囲気を留めているように思われる。
入口は、近頃ではトンとお目にかからぬ引戸である。これも、当時の面影を残すひとつであると言えよう。

名代の「洋風かき揚げ」はふんわりとした揚げ上がりこちらの名代料理は「洋風かき揚げ」¥900である。
池波氏の著書「散歩のときに何か食べたくなって」によれば、この「洋風かき揚げ」は初代店主堀口岩吉氏がドイツから帝大に教授として招聘された哲学者フォン・ケーベルの専属コックとして腕を振るっていた頃、ケーベル邸を訪問した夏目漱石と幸田延子(幸田露伴の実妹で女流ピアニスト)の為に考案し、好評を得た料理であったのだそうな。「散歩のときに何か食べたくなって」の記述によると
突然のことで何の用意も無く、仕方もなしに冷蔵庫の中の肉と鶏卵を出し、小麦粉をつなぎにして塩味を付け、フライにして出したところ、これが大好評だった。
・・・・・・というのが誕生時のエピソードであるらしい。

今回、朝食を食す気になれず空腹を抱えていた私は、この「洋風かき揚げ」を迷わず注文した。
かき揚げと言う言葉からは思いもかけぬほどボリュームがあるが、サクサクとした口当たりと軽い揚げ上がりが心地良く、想像していたよりもすんなりと腹中に収まる。中身は豚肉と玉葱であるが、ざっくりと刻まれた玉葱と小さめに切ってある豚肉がややもすると単調になりがちなコロモの食感の良いアクセントになっている。・・・・・・尤も、アクセントと言うにはあまりにも量があるのであるが、気が付いたときには大半を平らげた後だったという事実がこの「洋風かき揚げ」の美味さと食べ易さを物語っているであろう。
自家製ソースとマスタードを付けて食すと更に美味い。マスタードは少々効かせ過ぎと思う位が私には好みであった。

紡錘形に整えていないがこれも「オムライス」このときは、前述の通りの空腹を抱えた状態であった為、御飯は白飯では無く「オムライス」¥780にして貰った。「カレーライス」¥780や「ハヤシライス」¥900にも惹かれたのであるが、それはまたの機会ということにした。
「オムライス」は、形こそ普通には見ないものであるが、味はオーソドックスなオムライスそのものであった。中のチキンライスの味付けもくどくは無く、卵自体も薄焼きのあっさりした味付けであった為、逆に双方の旨味が引き立つ。上に掛けてあるケチャップの微かな酸味が卵の表面に残った油のくどさを消す。美味い。

取り立てて変わったことの無い“洋食屋”であるが、滋味とも言える美味さが守り続けてきた老舗の風格を出しているような気がする。それでいて、価格は東京のこの地とは思えぬほどの安さ。然程美味いとは思えぬチェーン店の「カレーライス」でもこれよりはカネを取るであろうに・・・・・・。
ハウステンボスの『とっとっと』と通じる雰囲気に、しみじみと心が落ち着く気がした。ここの料理と、一寸歩いたところにある『万惣』のホットケーキやフルーツポンチとを組み合わせると、値段は庶民的でありながら極上の昼餐を楽しむことが出来るであろう。

これからは、和風に行きたければ『まつや』⇒『竹むら』、洋風に行きたければ『松栄亭』⇒『万惣』というルートが定着しそうである。今から、このルートで楽しむたまさかの昼餐を思い描き、ワクワクと楽しみにしているところである。
(・・・・・・しばしば出掛けることが出来るかどうかはこの際二の次、ということにしておこう。何れ病気から回復をした暁には飽きる間も無い程に通い詰めることであろう)
posted by daydreamer at 22:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 東京散策 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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