2008年05月06日

更けゆく晩春の宵に(其の伍)

『パロット』に入ると、カウンターの中に居たのはYさんひとりだけであった。
「あらま、今日はおひとりで?」
「Aさん(『パロット』のTさん)、後で来る様なこと言ってましたけど、一寸判らないですね」
「そうですか。それはまた、忙しいでしょ?」
「いいえ、大丈夫ですよ」
今はカウンターに外国人客2人だけであるので良いやも知れぬが。
取り敢えず、土産を渡す。
「じゃ、これ、後で召し上がってください」
「ありがとうございます。・・・・・・これは何ですか?」
「これ、空港限定ってことで売ってた『クイーンアリス』の「スティックケーキ」です」
「『クイーンアリス』ですか?」
「そうそう。Yさん、「料理の鉄人」って番組はご存知です?」
「あ、聞いたことあります」
「それの初代の“フレンチの鉄人”の石鍋シェフのところで作ってるケーキですよ。あそこ、パティスリーも結構有名ですんで」
「あ、そうなんですか」
「ひょっとしたらAさんは此処のこと知ってるかもしれませんね。あのヒト、この間の『資生堂パーラー』も反応してましたし」
「あ、この間のチーズケーキですね。あれ、美味しかったですね」
「召し上がったんですか?」
「Aさんからひとつ頂きました」
「それはそれは・・・・・・」

此処は、元々カラオケクラブである。故に、『ジャックポット』や『グランキャフェ』の如くメニューにバラエティがある訳では無い。
此処に来ると大抵「ジントニック」か「スプモーニ」を頼んでいる。此度は「ジントニック」を頼んだ。
飲みながら、最近の景気などについてボツボツ話をする。
一区切り付いたところでYさん
「煙草吸っても良いですか?」
「あれ?吸うんですか??」
「ええ、まぁ」
注文が一段落してしまえば手持ち無沙汰である故、これは別に差し支えは無かろう。頷くと、Yさん、煙草に火を付ける。ゆっくりと吸い込み、美味そうに紫煙を吐く。既に『ジャックポット』で吸っている私であるので、それを見ても別にどうと言うことも無い。

カウンターの先客は延々と語り合うのみ。
カラオケの機械も手持ち無沙汰のように見える。
「歌いませんか?」
と、手元にコントローラーが差し出される。
早速、検索を掛ける。さだまさし氏の曲もそれなりに入っているし、中島みゆき女史の曲も結構ある。が、先客は外国の方である故、そのような曲を聴いても判りはすまい。
洋楽で検索を掛ける。私が知っている曲も思ったよりも多い。
好きな曲も様々あるが、最近(・・・・・・と言っても私が歌えるのはせいぜい1990年代の曲までである)の曲では好き嫌いもあろう。ならば“ちょいと新し目のOLDIES”位の方がウケも良かろう。
「(They long to be)Close to you(邦題:遥かなる影)」をリクエストする。例えて言うならば外国人が日本人の前で「翼をください」を歌うようなものである。好き嫌いを超えたスタンダードと言う趣であるので、耳汚しではあろうが何とか聞いてもらえる範疇であろう。
前奏が始まる。
マイクが渡される。
頃合いを見計らい、歌い出す。

Why do birds
Suddenly appear?
Everytime you are near
Just like me
They long to be
Close to you・・・・・・

この曲は、私がそらで歌える英語の数少ない曲のひとつである。とは言うものの、流石に知らぬ人の前で歌うことには慣れては居らぬ故、時折モニターに映る歌詞を確かめながら歌う。
此度は何とか歌い切った。
Yさんと、隣の客から拍手が上がる。
「上手いですね」
とは、Yさん。間髪入れず言葉が出るのは矢張り慣れであろう。
「ま、こういうのは耳で覚えたまんまですからね」
と、返す。
隣の客からも声が掛かる。
「アンタの英語、結構良かったわよ」
「そらまーどーも」
・・・・・・申し上げておくが、この会話のみは英語である。私の方は完璧な“ジャパニーズイングリッシュ”であるが。

手を洗いに立ち、席に戻ると花火の時間が間近であったらしい。
Yさん、2人連れにそれと告げる。
2人、席を立ってYさんが開けたドアから外に出る。
「あのお2人、ベース(基地)から来てるんですよ」
「あ、そうなんですか」
最近、増えたな。良いことだ。
「で、今から花火ですか?」
「もうそろそろ時間ですね」
「じゃ、私も『グラン』へ行こうかな。花火の時間だったら空いてるでしょ?」
「そうですね」
チェックをする。ドリンク1杯と1曲歌ったのみであるので、この日の勘定は¥900。何せ女性客の場合チャージは無いので・・・・・・。
「じゃ、どうも。また、時間があったら戻ってくるかもしれませんけど」
「はい、お待ちしてます」
飛び降りるように席を立ち、そのまま『グランキャフェ』へと向かう。
posted by daydreamer at 23:20| Comment(0) | TrackBack(0) | Amstelveen Story | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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