2008年05月07日

更けゆく晩春の宵に(其の陸)

『グランキャフェ』は、案の定多くの客で埋め尽くされている訳では無かった。私の“定席”も空いていた。
「いらっしゃいませ」
の声に迎えられ、真っ直ぐに“定席”に歩み寄り、腰を下ろす。

「あのさ、薬飲むから水くれる?」
「今日の最初の注文が“水”ですか・・・・・・」
くさった様な表情で応えるのは、無論のことMさんである。それでも、間髪入れずに水の入ったタンブラーを出してくる。
「薬飲むから常温の方が良いですよね」
「うん、ありがと」
今も切らせぬ薬を飲む。この薬が何であるかは、Mさんは薄々感付いている様であるので、それ以上のことは特には言わぬ。
「でも、これは注文とは言わないんじゃ・・・・・・せめて“最初”じゃなくて“0.1番目”位に言って欲しいですよね」
「そうですね」
傍らのTさんと、彼の如くの会話を交わす。

「さて、今日は○○さんが来たから忙しくなるかな?」
「そんなことは無いでしょう」
「何時もそうじゃないですか」
「そう何度も続く訳じゃ無いでしょう。確かに今日は人多かったですけど」
「そうそう。明日のイベントに備えて大勢来てましたよね」
実際、『パサージュ』の『U』でFさんにも
「今日、よくホテル取れましたね」
と言われた程、多くの人が居られたのだそうな。
「そうですね。実際今日も夕方から自転車借りたんですけど、思う様に漕げない位華やかな衣装を着た方々が・・・・・・」
「そうそう。“ハイジ”達がいっぱい居ましたよね」
・・・・・・アレを“ハイジ”と呼ぶ勇気は私には無いが・・・・・・

「ま、兎も角、これ、どうぞ」
と、またもや『クイーンアリス』の「スティックケーキ」を渡す。
「あら、何時もありがとうございます」
「いえいえ」
「これ、私の好きな人で分けようかな」
と、Tさんが言うと、Mさんがカウンターの中から拗ねたように
「僕、Tさんに嫌われてますからね」
と、言う。
「えー加減にせーよ・・・・・・ったく、もう。そう言えば、こちらは何人居るんですか?」
「えーと、この間1人卒業しちゃったんで5人ですね」
「したらさ、これ6本あるから1本位は回って来るんじゃない?」
実際どのように分けたのかは定かでは無いが。

「で、ご注文は?」
「じゃね、最初はあんまり強くないので。「テコニック」ね」
「「テコニック」すか」
「うん」
『グランキャフェ』のスタートは「テコニック」から取り敢えずテキーラを飲むのであればこれは基本であろう。「テキーラトニック」略して「テコニック」を頼む。バーテンダーとしては腕の振るい甲斐が無いカクテルであろうが、その辺りはご勘弁頂くとしよう。・・・・・・Mさんお得意の「ブロードウェイ・サースト」は、今回は、まぁ、置いておくとして。
飲みながら、四方山話を進める。が、相手は最早気を遣うことも無くなったMさん(『ジャックポット』のスタッフ達の他に気を遣わずに居るのは唯一このMさんだけである)では無くTさんである。但し、話のネタの切っ掛けはMさんであるのが私の天邪鬼なところ。
「そうそう、このコ、ガンダムが好きだって話で思い出したんですけどね」
「ええ」
「私の前の職場の近くに『ガンダムカフェ』ってのがあったんですよ」
「何ですか?それ」
「あのね、ガンダムの等身大の胸像が置いてあるところがあって、そこの頭のところにある階にカフェテリアがあったんですね」
「はいはい」
「実は前の職場の歓送迎会で、100人近くが来る飲み会があったんですよ。そういう人数ですと入れるところが殆んど無くて、唯一使えるのがその『ガンダムカフェ』だったんですよね。立食でしたんで」
「あ、成る程ね」
「最初の年は迎えて貰う方だったんで食べるものもそこそこ貰えたんですけど、次の年はお客さん扱いなんかして貰えないでしょ?だから、飲み物を持って、ガンダムの前の手すりに寄り掛かって飲んでたんですよね。「何でガンダムとにらめっこしながら飲まなきゃならないんだ」ってブツブツ言いながら」
「Mだったら嬉しいかもしれませんね」
確かに(そちらを向くことは無かったが)カウンター越しに興が乗っている様子が伺える。

そのとき、テーブル席から注文が飛んだ。
「あ、また「グラスホッパー」の注文」
「“また”って言うとよく来る方なんですか?」
「ええ、ベースから来てる外人さんですけど、「グラスホッパー」ばっかり飲むんですよ。この間なんか5杯空けましたね」
「はい?「グラスホッパー」5杯ですか!?」
「○○さんなんかだったら甘いもの苦手ですからそんなに飲めないでしょ?」
「5杯どころか・・・・・・」
1杯も空けられるかどうか。「グラスホッパー」はクレーム・ド・カカオに生クリーム、風味付けでペパーミントを使った菓子の如き甘い味のカクテルである。考えるだに胸焼けしそうだ。
カウンターの向こう端で「グラスホッパー」が調えられた様である。Tさん、客の下に「グラスホッパー」を運ぶ為、その場を離れる。
すると、Mさんがぽつり。
「あのヒト、「グラスホッパー」しか飲めないんですよ」
「あ、成る程ね」
posted by daydreamer at 23:06| Comment(0) | TrackBack(0) | Amstelveen Story | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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