2008年05月13日

更けゆく晩春の宵に(其の漆)

テコニックはそれ程強くないカクテルである。
喉が渇いていたこともあり、早々に飲み干した。
「次、何にします?」
「そうだね・・・・・・アタシ、今、薬飲んでるでしょ?だからね、あんまり強いのは飲まないようにしてるのヨ」
「成る程。で、何を?」
「そういう訳でね、「ロングアイランドアイスティー」くれる?」
「・・・・・・たらーっ(汗)
半ば呆れ、半ば唖然とした顔をするMさん。「ロングアイランドアイスティー」はジン・ウォッカ・ラム・テキーラの4種類の酒を使用するカクテルで、度数は大体30度位なのだそうな。大変に飲みやすいカクテルであるが、この度数は強いのやら弱いのやら・・・・・・。
それは兎も角、Mさん、ふっと屈んで何やら操作をしている。すると、何時ぞや『ヴィノテーク』で聞いたガリガリガリ・・・・・・という音が響いたものである。
(ん?砕氷機?)
と思ったときにはもうグラスにクラッシュアイスを詰めている。一旦カウンターの向こう端に行って「ロングアイランドアイスティー」を作って持ってきた。ご丁寧にレモンスライスを飾ってあるので一見すると普通のアイスティーの如くに見える。ストローも添えてきたのであるが
「あ、ストロー要らん」
と言うと、マドラーを入れるグラスをスイッと出す。彼の如く我儘に呼吸を合わせて対応して貰えるのは、矢張り馴染みと言う所以であろう。

ピアノの演奏が始まった。束の間、心を音に遊ばせる。
ふと、人の気配がした。振り向くと、バイトのHi君が入ってきたところである。流石にこれだけ出入りをするといい加減顔も覚えるのであろう、Hi君、すっと会釈をして通り過ぎる。
「アイツですね、Tさんを見ると“お母さんの匂いがする”って言うんですよ」
「あ、そう」
ひらめき
ニヤニヤ笑いを浮かべるMさん。
「・・・・・・?」
「お母さんの匂いがする」
「あんな大きな息子を持った覚えは無いわい」
年を考えてみよ。あの年の息子を持つ為には高校在学中に産まねば間に合わぬではないか。
「それにしてもさぁ、アンタ、アタシからかうときのレパートリー少ないよね。“甘いモノ”と“赤ワイン”でしょ?今の入れても3つしかないし・・・・・・もっと他のモンは無いの?」
「ありません」
言い切るのではない。お笑い系。

つっと手を洗いに立った。席に戻る途中、ホールに出ているTさんとバイト君達が、ホール席への入口近辺のカウンター付近に集まっている。
「Tさん、Mがいぢめる」
「どうしたんですか?」
「先刻Hi君がそこ通ったら“お母さんの匂いがする”って言うのヨ」
「でもこの子可愛いですからね」
「ま、そうでしょうけどね」
「私の自慢の“息子”ですよ」
ガバッとHi君の肩を抱いて言う。のは良いが、御姉様と私はひとつしか違わぬではないか。“いぢめる”と訴えているのに追い討ちをかけてどうするのだ。
「アタシはこんなデカイ息子を持った覚えは無い!」
ほれみろ。また癇癪玉を破裂させてしまったではないか・・・・・・あせあせ(飛び散る汗)

足音荒く元の席に戻り、着く。携帯で現在時刻を見ると、既に22:00近くになっている。そろそろ煙草が恋しくなってきた。
「じゃ、帰るワ。「XYZ」ね」
「畏まりました」
Mさん、グラスを用意する。が、動く気配は無い。訝しく思っていると、豈図らんや、Nさんがシェイカーを振りながらこちらへやって来る。
(珍しいこともあるものだ)
と思っているうちに、グラスに「XYZ」を注ぐ。ふとNさんを見ると、いつもは見ることの無い眼鏡を掛けている。
「あれ?眼鏡掛けてましたっけ?」
「乱視が酷いんですよ」
「近くを見るのがしんどいとかじゃなくて?」
「それは無いですね」
それはそうであろう。Nさんは未だ若い(『ジャックポット』のTさんよりも年下である)のだから・・・・・・。
グラスを取り、「XYZ」を干す。こういうときは触らぬ方が良いと知ってか、Mさんは何も言わず、特に突付くこともしないまま。何せ此奴の前で癇癪玉を破裂させたのはこれが初めてでは無く、その後何食わぬ顔で飲みに来た私の様子も見ているのだから。
空のグラスを置き、席を立つ。レジへ向かうと、伝票を持って付いて来たのはMさんである。
勘定を支払い、出口へ向かう。
「ありがとうございました」
の声は、背で聞いた。

それにしても、いつもと違うバーテンダーの「XYZ」。
これが“今後入店拒否”の意思表示だとしたら一寸怖いな・・・・・・がく〜(落胆した顔)
posted by daydreamer at 22:41| Comment(0) | TrackBack(0) | Amstelveen Story | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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